月面車
宇宙飛行士たった2人で探検するには、月はあまりにも大きな新大陸です。 少しでも行動の幅を広くするため、フォン・ブラウン博士はアポロ計画の初期段階から 月に自動車を運ぶことを構想していました。

LRV Kit 月面車(Lunar Roving Vehicle)
全長:122inches (310cm)
全幅:6ft (183cm)
ホイルベース:90inches (230cm)
重量:地球上:462pounds(209kg) 月面上:77pounds(35kg)
最低地上高:14inches (35.5cm)
最小回転半径:10ft (305cm)
最高速度:8.7mph (14km/h)
動力:36V 銀亜鉛バッテリx2台、DCモータx4台
走行距離:約57miles (92km)
製造:BOEING Company Space Center Seattle, Washington. General Mortors Delco Electronics Division's Santa Barbara Operation California. (ナビゲーションシステム:BOEING Company Aerospace Group Electronics Organization)

開発
月面車は、NASAマーシャルスペースフライトセンターの依頼で、 ボーイングとその子会社であるGeneral MortorsのDelco Electronics Divisionにより開発されました。 アポロ11号が月着陸に成功した1969年頃には、1人乗りの月面バイクも研究されていました。 アポロ15号で月に運ばれたLRV-1の前に、下記のような8台のテスト車が生産されました。 そしてLRV-1(APOLLO15)からLRV-3(APOLLO17)までの3台が実際に月に持ち込まれ、使用されました。 LRV-2では、シートベルトのデザインが改良されました。またLRV-3ではフェンダーのデザインが改良されました。
LRV-1は、月面車の開発がボーイングに決定してからわずか17ヶ月後の1971/3/14にNASAに出荷されました。 これはアポロの各ユニット(CSMから宇宙服まで)がどれも開発開始から出荷まで 軒並み50-60ヶ月かかっていることを考えると驚異的な早さといわれています。

性能
月面車は、2名の宇宙飛行士とその生命維持装置、それに約340ポンドの科学実験機材、 月面から採取したサンプルなど、地球上で総計1140ポンド(約517kg)の貨物を輸送する能力があります。 これは自重の約2倍、一般的な乗用車が自重の半分の貨物しか搭載できないのとは対照的です。 また利用可能時間は月面の日中において約78時間です。
地上走行能力は、停止状態から1フィートの高さの障害物を乗り越え、 また28インチの溝を乗り越えることが出来ます。 さらに貨物を搭載した状態でも25度の傾斜を登ることが出来、 パーキングブレーキは35度の傾斜でも駐車させることが出来ます。 最大荷重時にピッチ、ロールとも最大45度まで傾斜しても走行可能です。
アポロ15号では最高で時速14キロ、16号では17キロの速度を記録しました。

構造
シャーシのフロアパネルはアルミの波板で造られています。 シャーシの地上高はダンパーによって、空車時17inch、フル積載時14inchに保たれます。 このシャーシの上に、横並びに2つのシートが設けられています。 この座席はアルミチューブのフレームにナイロンを張って造られていて、飛行中は折り畳み椅子のように畳まれています。 フットレストもシャーシの中央にベルクロストラップで固定されていて、使用時はこれを展開します。
シャーシの中央部にはコンソールがあります。 コンソールには運転操作するためのハンドコントローラ、 LMの方向とLMからの距離、そして総走行距離を示すナビゲーションシステムが搭載されています。 またハンドコントローラの手前に、ファイバーグラスで作られたアームレストが取り付けられています。
月面車のホイールは金属ワイヤーを編んで造られていて、トレッド面には山形の板が並べられています。 各ホイールには、それぞれ独立したモーター、ブレーキ、減速機(harmonic drive reduction unit)からなる 動力ユニットが接続されています。 また、各ホイールにはグラスファイバー製のフェンダーが取り付けられています。 このフェンダーの一部は着脱式となっていて、月面で展開後に飛行士が取り付けます。
各モーターは36V直流ブラシ型で、それぞれ1/4馬力の出力を持っています。 各モーターには温度センサーが組み込まれていて、制限温度を超えたときは自動的にモーターが停止します。 減速機はモーターの回転を80:1に減速出来、飛行士はギヤシフトを行う必要がありません。 ブレーキは機械式で、ハンドコントローラーからケーブルで制御されます。
ステアリングシステムは前輪と後輪に独立して組み込まれています。 通常は前輪、後輪両方のステアリングシステムを使います(4WS)が、どちらか一方が故障したら、 もう一方だけで走行を続けることが出来ます。 車輪は外側に22度、内側に50度傾きます。
前方シャーシに23セルからなる36ボルト115AHの銀亜鉛バッテリを2台搭載しています。 それぞれのバッテリの重量は59ポンドあります。また再充電は不可能です。
前方シャーシにはこのほかに、ジャイロ(DGU:DIRECTIONAL GYRO UNIT)と シグナルプロセッシングユニット(SPU:SIGNAL PROCESSING UNIT)が搭載されています。 DGUはLRVの方向と月の北の方向を知るためのガイドとして使用されます。 またSPUは、デジタルおよびアナログコンピュータの機能を持っています。 各機器は、幾重にも重ねたアルミ箔・マイラーとナイロンネット断熱カバーで覆われ、外側には白いベータクロスがかぶせられています。 SPUとDGUから発生した熱は、アルミの導熱ストラップを介して、可溶性のヒートシンクとバッテリに蓄えられます。 そして月探査の終了後、飛行士がバッテリ上部のファイバーグラスのダストカバーを開けると、 可溶性のシリカ放熱器が現れ、放熱が始まります。 バッテリが最低運用温度の華氏約45度まで下がると、カバーは自動的に閉じます。

運転の仕方
操縦は、コンソールに取り付けられているT字型のレバー:ハンドコントローラーで行います。 操縦は片手で行うことが出来、前にも後ろにも自由に速度を変更することが出来ます。 ハンドコントローラーを右または左に倒すとステアリングが操作でき、前方に倒すとモーターが加速されます。 後方に倒すとモーターが停止され、ブレーキがかかります。 逆転スイッチ(reverse inhibit switch)を引きながらハンドコントローラーを後方に倒すとバックします。 ハンドコントローラーを3インチ以上後方に倒すとパーキングブレーキがかかります。 駐車中、ハンドコントローラーを左に倒すとパーキングブレーキが解除されます。

コンソール(Control and display console)
コンソールは、上部のナビゲーション部と、下部の制御スイッチ、モニター表示部に分かれています。
統合位置表示器 INTEGRATED POSITION INDICATOR(IPI)
方向インジケータ HEADING INDICATOR
月の北に対して、LRVの向いている方向を示す。
LMインジケータ BEARING INDICATOR
LMの方向を示す。
走行距離インジケータ DISTANCE INDICATOR
走行距離が0.1キロ単位で加算表示される。 これは、車輪のスリップを考慮し、4つの車輪の中で3番目に速いオドメーターの情報が使用される。
LM距離インジケータ RANGE INDICATOR
LMからの距離を表示する。
姿勢インジケータ ATTITUDE INDICATOR
LRVのピッチとロール角を表示する。ピッチ角を+-25度の範囲で表示する。 また、計器自体を前方に回転させると、ロール表示が現れる。 これらの計器は飛行士自身によって読み上げられ、ヒューストンに報告される。
太陽方角測定器 SUN SHADOW DEVICE
太陽に対して、LRVの向いている方向を示す。 この情報は定期的ジャイロの誤差をチェックするために使用される。 この装置を規定の位置に立ち上げると、日時計のようにメモリに影が落ちる。 このメモリを飛行士が読みとってヒューストンに報告する。
速度計 SPEED INDICATOR
LRVの速度を時速0〜20kmの範囲で表示する。 これは右後車輪のオドメータ情報を利用して表示する。
ジャイロ調整スイッチ GYRO TORQUING SWITCH
ナビゲーションジャイロの調整を行う。 スイッチを右に倒すと方向目盛りが反時計回りに回転する。 スイッチを左に倒すと方向目盛りが時計回りに回転する。 月面探査の開始時、および探査中定期的に、太陽方角測定器(SUN SHADOW DEVICE)や 姿勢インジケータ(ATTITUDE INDICATOR)の値と比較して調整される。
ナビ電源サーキットブレーカー NAV POWER CIRCUIT BREAKER
メインバスとナビゲーションサブシステムの間の接続をON/OFFする。
システムリセットスイッチ SYSTEM RESET SWITCH
BEARING/DISTANCE/RANGEの各インジケータのデジタル表示をゼロにリセットする。 月面探査の開始時に、このスイッチを押して各表示をリセットする。
電源セクション POWER SECTION
バッテリとメイン電源バス、外部電源コネクタとの間のサーキットブレーカー、 およびパルス幅変調器への+-15V直流電源である。 モーターなどの各負荷は4つのメインバスを介して、2つのバッテリのいずれにも接続することが出来る。
ステアリングセクション STEERING SECTION
2つのステアリングモーターのサーキットブレーカーとスイッチ。
ドライブパワーセクション DRIVE POWER SECTION
各車輪の、4つのドライブモーターのサーキットブレーカーとスイッチ。
ドライブイネーブルセクション DRIVE ENABLE SECTION
各車輪の、4つのドライブモーターを、2つのパルス幅変調器(PWM1/PWM2)の どちらに接続するかを指定するスイッチ。
電源・温度モニター POWER/TEMPERATURE MONITOR
電源の状態と、モーター、バッテリの温度を監視する。 バッテリの電流と電圧は同じメーターに表示される。 この電流と電圧の表示は"volts-amps"スイッチで切り替える。 またモーターの温度計は"FORWAED-REAR"スイッチで、前輪、後輪の表示を切り替える。
警告灯 CAUTION AND WARNING SYSTEM
どれか一つのバッテリまたはモーターのオーバーヒートが発生すると コンソールの上にマグネットで折り畳まれている「アラーム」パネルがスプリングで立ち上がる。 そしてサーキットブレーカーが切断される。
展開システム DEPLOYMENT SYSTEM
LRVは、折り畳まれた状態で、前部を下にして、LMの降下段のクワッド1(操縦席から見て梯子の左)に3点で固定されています。 宇宙飛行士が、LMストレージ・ベイの両端に取り付けた2本のナイロンテープをゆっくり引くと、LRVが展開されます。 まず最初に、飛行士はLMの梯子でDリングを引きます。するとLRVを固定する3本のピンがはずれ、展開可能となります。 スプリングによりプッシュオフロッドがLMストレージ・ベイの上部から、LRVを約4度押し出します。 つづいて飛行士は右側のテープを引き続けます。 するとLRVはシャーシの中央部分に取り付けられた2つの三脚により、シャーシ下部を中心にして外側に回転を始めます。 40〜50度回転したところで、前方、後方シャーシを固定しているピンがはずれ自由となります。 50度ほど回転すると、後方シャーシがバネの力で所定の位置に固定されます。また後部車輪が展開し、固定されます。 その間、前方シャーシは、中央シャーシに対して45度の角度で折り畳まれたままです。 中央および後方シャーシが73度まで回転すると、前方シャーシが展開を始めます。 そして後輪が月面に着くと、こんどは飛行士は左のテープを引き始めます。 すると前輪も月面に着き、展開が完了します。 最後にいくつかのピンを抜き、不要となった展開用パーツを取り外します。
この展開作業は、LM底面が月面から14-62インチの間であれば、最大14.5度の角度まで、 あらゆる方向に傾いていても実施可能となっています。 またこの作業は通常5分程度、最悪でも15分程度で完了します。

展開後の作業
展開後は飛行士の一人が乗車し電源を投入します。 そしてまずはバックで発進させ、機材積み込みのために移動させます。 この間、もう一人の飛行士はLRVの動作を見守りチェックします。 月面通信ユニット(LCRU:Lunar Communications Relay Unit)、 テレビ通信用高利得アンテナ、テレビカメラがシャーシ前方に搭載されます。 LCRUは本体内蔵バッテリとLRVのバッテリの両方で動作チェックを行います。 また音声通信用低利得アンテナと機材が車体中央のコンソール両脇に搭載されます。 そして最後にツールと実験機材などを、シート後ろのパレットに搭載します。
走行中には高利得アンテナは固定されています。そのためテレビ通信はLRV停車中のみ可能です。 一方音声通信は低利得アンテナを使用し、走行中でも可能です。
各EVA(船外活動)の終わりには、LRVはLMから見える位置に置き、放熱器を展開して、電源を止めた上で駐車します。


[Book] Lunar and Planetary Rovers: The Wheels of Apollo and the Quest for Mars
Springer-Verlag 2006/8/1 USD39.95 / 4,480円
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The Wheels of Apollo and the Quest for Mars fills a need for a complete history of the Lunar Roving Vehicle used on Apollo 15, 16 and 17, drawing on many photographs never before published. It will also tell the story of the successful robotic rovers used on Mars, and will conclude with a description of the new designs of rovers planned for The New Vision for Exploration now underway at NASA. In the Introduction, Anthony Young discusses the influence of art and images in both books and magazines that sparked interest in manned space travel. The Cold War launched the Space Race between the United States and the Soviet Union and the Mercury, Gemini and Apollo missions are provided in overview as a prelude to following chapters. Chapter One explains the early concepts of a lunar rover even before the start of Apollo. Following Apollo 11, requests to Industry for proposals are made, and Boeing wins the contract to design and build the Lunar Roving Vehicle. The book covers the complete program from Boeing’s perspective as well as the Marshall Space Flight Center. Chapter Two details the testing undertaken by the astronauts with the 1-G trainer in desert environments as well as simulators, as well as at Kennedy Space Center in full EVA suits. Chapters Three, Four and Five cover Apollo missions 15, 16 and 17 respectively, when the lunar geology field trips were conducted, and the successful use of the LRV on the moon. Chapter Six describes the engineering of the Martian robotic rovers Sojourner, Spirit and Opportunity. Chapter Seven covers the future use or manned and unmanned rovers in NASA’s New Vision for Exploration.
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